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京都家庭裁判所 昭和42年(少ハ)6号 決定 1967年11月25日

本人 B・Y(昭二二・八・一八生)

主文

本件申請を却下する。

理由

本件申請の理由は、

本院生は、昭和四一年一月一八日、当裁判所において、強盗窃盗保護事件により、中等少年院送致の決定を受け、ただちに奈良少年院に収容保護され、強制教育を受けて来た者であるが、院内で喧嘩、暴行及び不正品授受等の院内秩序をしばしば紊したため、その処遇成績は上がらず、収容期間が長びいていたところ、更に本年七月二三日、些細な事に激昂して職員にガラス破片を突きつけて脅迫した行為があり、これらに徴し未だ十分性格の矯正はされておらず、退院させるに不適当であるとして、本年八月七日、本院生を満二〇歳に達する本年八月一八日以降、引き続き三ヶ月の収容継続の申請をなしたところ、当裁判所において審按した結果、本年九月一二日、本院生を引き続き、本年一一月一七日まで収容を継続する旨の決定をしたが、その直後、収容継続決定前の本年六月下旬より七月上旬頃にかけて、教官の目を逃がれタバコの不正持込、授受、喫煙の諸行為を自供するに至つたので、懲戒処分を受け、再び大巾に減点されて、二級上に降級され、本年一〇月二五日現在の得点は一〇二点で退院時要求される、おおむね二六五点にほど遠く、本院生に対し規範意識を植え付け、その犯罪的性格を矯正して上記退院時一般に認められる得点に達するには、なお上記収容継続期間満了後五ヶ月を要する。よつて、本院生に対し再度の収容継続の申請をなすものである、と云うにある。

よつて、当裁判所が調査審判の結果、本院生は、上記申請の理由記載のとおりの年月日、事由により、奈良少年院に収容され、強制教育を施されていたが、喧嘩暴行、不正品授受等の院内の秩序を紊す事が多く、更には、職員に対し、ガラス破片を突き付けて脅迫したため、大巾の減点と降級の処分を受け、退院に必要とされる得点にほど遠く、未だ本院生の犯罪的性格の矯正は十分でない事を理由として、本年八月七日、収容継続の申請方あり、当裁判所において、本年一一月一七日まで収容継続の決定をなし、本院生に対し、満二〇歳に達した本年八月一八日以降も引き続き、強制教育が施されていたものであること、その後、本年九月二三日前回収容継続決定前の本年六月中旬から七月上旬頃にかけてなしたタバコの持込、授受、喫煙行為により、一一二点の減点と二級上への降級の処分を受けたものであることが認められる。しかしながら、本院生の前記不正品(タバコ)の持込、授受、喫煙行為は、前回の収容継続決定時、その全貌は確実に把握し得ていなかつたとしても、本年七月上旬頃不正品授受行為として或る程度判明しており、院内の秩序違反行為として、前回の収容継続決定の理由の一部として判断されていたものであり、その後に至り、本院生がその全貌について自供したとしても、本年九月二三日の処分はいささか過酷にすぎる嫌があること、本院生は、前回の収容継続決定をなすまで、上記認定のとおり、相当粗暴な性格を露呈せしめる不祥事をしばしば惹起していたが、上記収容継続決定後、一回故意なき窓ガラスの破損をなして、院長訓戒を受けたのに留まり、よくその院内規律を遵守して事故なく経過し、反省悔悟による改善の跡顕著である事が認められること、本院生は、入院以来約一年一〇ヶ月に亘り、相当長期の収容を受けており、上記のとおり、収容継続決定後、短時日であるが自らの反省悔悟による改善の跡歴然と認められるにも拘らず、今また収容を延長して院内処遇を施してみても、落胆の余り、自棄的傾向を助長しこそすれ、本人の自力更生の意欲の強化に役立たず、強制教育の効果は期待し得ないものと認められる。幸い院の努力もあつて、両親既に亡く、天涯孤独とも云うべき本院生に対し、暖かく、職を与え良き社会人として指導を申出る人もいる折柄、本院生をすみやかに社会に出し、側面より暖かい指導を加えつつ、内にある自力更生の芽生えをより育てて強固ならしめるのが相当である。

よつて、本院生は、その処遇成績が、上記不正品授受等により、大巾減点と降級により、一般に退院時認められる程度にほど遠い状態であるとしても、前回の収容継続決定時と異なつた、上記諸埋由により再度の院内収容継続を必要と認めないので、本件申請を却下することとして、主文のとおり決定する。

(裁判官 相良甲子彦)

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